サップマンク、このポルタ=エクシードの名物、街の小さな郵便屋ってやつかな。さすがに重要書類を送るやつはいないけど、子供のバースディカードや恋人のメッセージを送る人は多い。
僕のうちではサップマンクのブリーダーをやっていた。元々小さい小動物だから、生まれて日が浅い仔どものサップマンクはなおさらかわいいかった。
――1匹ちょうだい!
と父さんにいってみたけど、あっさり断られた。だからこの日、僕はこっそり忍び込んで一匹お持ち帰りしようかと思っていた。
「この仔がいいかな……痛っ!」
指をかまれた。ゲージの中にむりやり手を突っ込んだのが間違いだった。慌ててかまれた指をなめた。
(えっ?)
なめている感覚が徐々におかしくなっていった。かまれたあたりから毛のようなモノが生え、指が小さくなっていた。
指を確認しようとしたときにはもう遅かった。腕や胸部は既に変化し、白い毛が生えていた。そのことに気づいたときには頭部が変化をはじめ、しっぽが生じ、足が変化し、最後にサイズか小さくなった。
わずか数分の間に僕はサップマンクと化した。
(……夢だよな、これ)
そう信じたくなるのは普通だろう。ただ痛みがリアルだったため、すぐにこれが現実だと実感した。
『飼いたい』とは思ってたけど『成りたい』とは思ったことはない。
「なんか眠い……」
変化のせいか脱力感におそわれ、そのまま眠ってしまった。
翌日……
「またカイルのやつ……」
お父さんの声で僕は起きた。父親がいつもより大きく見えた。サップマンクの姿をしているから当たり前と言えば当たり前なのだが……
「なんか一匹多いような、まあいっか、こいつも送るか」
「キィ!」
状況はあまりよくなかった。
「キィ〜! キィ〜!」
僕が父さんの息子だと訴えようとしたが、通じることはなかった。
この日、僕は強制的に家を出ていく羽目となった。
あれから半年がたつ。
人間からサップマンクになったんだから、すぐに処分されてしまうだろうと思っていたのだが、小さいころから良くサップマンクを追いかけていたため、道を覚えてしまったから処分は免れた。
「あっ、サップマンク」
今僕はある少女に手紙を渡していた。
「私に?」
少女はすぐさま封筒をあけた。どうやらバースディカードのようだ。彼女のうれしそうな顔を見ると、僕もうれしい。
「ありがとう」
少女は僕のことをなでてくれた。
“こんな生活も悪くない”
と思う今日このごろ……
小説一覧へ
感想は
通常掲示板までお願いします。